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ノート三宅島で見た海の力、自然の力

- 水中写真家・中村征夫さんインタビュー -

“底もの”に見た潮の力

中村 僕はまず何に注目したかというと、底にいる生物なんです。泥流をかぶったり、溶岩をかぶったりして死んでしまった海底の姿、これに注目したんですよ。それがどのようになっているか。でも、そこにはもう新しいテングサも生えてきているし、底生生物もあちこちにいたし、カレイや、ヒラメ、ホウボウとか、そういうものもたくさんいた。僕らは“底もの”っていうんだけど、そういう底ものたちを見ると、やっぱり、噴火は生きものにも大打撃を与えたけども、だいぶ元に戻っているなという印象を強くしました。

潮の力というのは、人間の想像をはるかに超えて、すさまじい力を持っているということです。例えば田んぼの用水路などを作るために、潮を遮って川に水門を作り真水だけにしてしまうと、遮られた外側と内側では様相が一変してしまって、内側は視界も悪く、死の水の空間そのものです。

体験記写真

ヒラメ:何事も悟ったような表情を時折見せてくれる。それにしてもこの瞳、険しいと言うべきか、うるんでいると言うべきか。伊ヶ谷港 (撮影:中村征夫)

――それはかなり短期間に変わってしまうんですか?

中村 もうあっという間ですね。しかし、遮る前の土壌は残っているわけですよ。だから、また蓋を開けて潮を流せば、すぐに甦るんです。それだけ潮というものはものすごい力を持っている。僕は田舎が秋田県の八郎潟なんです。あそこは琵琶湖に次ぐぐらい大きな湖なんだけども、そこを、国の政策で全部埋め立てて田んぼにすることになった。海から海水が入り込んでいる川があるんですけど、水門を造ってそれをせき止めてしまったんですね。それによって完全に真水になるわけだけど、もう透明度は悪くなるわ、水は澱んで死んでしまうわで、あれだけいたシジミが全滅してしまったんです。ヤマトシジミといってアサリぐらい大きいんですよね。僕ら子どものころよく採っていましたけど。

ところが、米は余っているわ水門は錆びてきたわで、水門を何年かぶりに開けて、海水を入れて水門を塗り替えようということになって、3、4日放置したんです。そうして海水が入ったら、もう何年ぶりぐらいだろう、シジミが湧き上がっちゃって豊漁になった。友達の佃煮屋がいっぱいシジミの佃煮作り始めるし、農家の人もみんなシジミ採り始めるし、大変でしたよ。

――潮の威力ってすごいんですね。

中村 そう、海の自浄作用というのはすごいんですよ。

黒潮で甦る三宅島の自然

体験記写真 ――中村さんが以前ご著書で、日本の海は南と北と西と東があってすごく多様性に富んでいる、これほどバラエティに富んでいる海は世界でも珍しいと書かれていたんですが、三宅島の周辺の海というのは、日本の他の海と比べてどんな特徴や魅力があると思われますか?

中村 あのね、例えば伊豆七島の中でも違うんですよ。このあいだ僕、写真展のための写真を撮りにどこの島に行こうかと考えたことがあって、伊豆大島なら最近も含めて何回も行っているから、あれとあれの写真は撮れるなという当たりがつけられたんですね。そこで伊豆大島の方に連絡すると、「何にも見えませんよ、濁って」って言われて。冷水塊というか、黒潮が今年は来ないからだって。

――そうらしかったですね。ずいぶん遅れたとか・・・・・・。

中村 「冷たくてとても潜っていられないよ」っておどかされたんですよ。一方三宅島に連絡してみると、「あったかいよー」なんて言うわけ。「水もきれいだよー」って。三宅島には黒潮がもろにぶつかっているから。伊豆七島だけでもそれだけの違いがあるんですね。

――なるほど。

中村 だから、三宅島は非常に海の恵みを受けている、黒潮という大きな海流の影響をまさに受けている島ですよね。だから富賀浜にはサンゴの群落があるんですよ。伊豆七島ではあそこだけでしょ。

――海の中の風景は季節によっても当然変わるわけですよね。

中村 そう。海の中は季節によって訪れる魚も変わってきます。夏ものと冬ものは全く違う。それは南も北も一緒ですね。

日本の海というのは、海岸線が非常に複雑で、リアス式にもなっている。それだけでも海外とは全然違います。こんな小さな国だけど、東西南北に非常に変化に富んだ海がある。南西諸島のサンゴ礁は、サンゴが生育するところでは世界の北限なんです。一方、知床の方は流氷が来る海では世界の南限にあたります。南限と北限があって、しかも当然太平洋側と日本海側では全く様子が違う。日本海側は対馬暖流が流れているしね。

日本は火山列島なんだけども、その影響を色濃く映しているのはその地形です。その地形が、日本が非常に豊かな恵みを海から与えてもらえる、大きな要素だと思うんですよ。だから、今ある海岸線も、46億年の地球誕生の中で必ず意味があってできている。それを我々4、50年生きた人間が、勝手に川を真っ直ぐにしたり、海岸線を堤防で埋めたり、ブロックを埋めて潮の流れを変えたり、予測がつかないことをやってはいけないよ、って思うんです。

――それで言うと、三宅島は火山が噴火したけれども、人工的に手を加えたわけではないから再生が可能なわけですね。

中村 そう、自然が壊したものは、自然が責任を持ってきっちり修復しているよ、ということです。

体験記写真

テーブルサンゴの群落: かつての規模とまではいかないが、少しずつ回復し、美しい広がりを見せつつあるクシハダミドリイシ。左奥はオヤユビミドリイシ。富賀浜 (撮影:中村征夫)

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